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家田足穂のエキサイト・ブログ

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2011年 11月 24日

(9)《メサイア》第三部のハイライト

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「わたくしは、自らと人々の《精神の向上のために》崇高なるものへと少しでも高めたいと思い、全精力を傾けて音楽を創りました。」
このようにイギリス市民階級の人々に語ったヘンデルと、ドイツで数々の名曲を作曲し、信仰心を育てたバッハは、バロック音楽の世界を完結させた偉大な巨匠でした。



《華麗・勇壮なトランペット・アリア》


第三部第14楽曲群の第47曲「わたしはあなたがたに神秘を告げます」の絶妙なレチタティーヴォが、神秘の雰囲気を込めて死者の復活の神秘を告げます。そして第48曲「ラッパが鳴るとともに、死者は復活して朽ちないものとされ」のトランペット・アリアは、伸びやかに確信に満ちた声で繰り返し繰り返し、死者が復活して朽ちないものにされる神秘を揺るぎない信仰のうちに歌い、最後の審判の劇的様相を強烈に印象づける楽曲です。

この二つの楽曲では、すでにレチタティーヴォからテキストにあるラッパの音を模倣する伴奏が入り、オペラティックに歌うバスのダ・カーポ・アリアは、これまた最後の審判を模倣して繰り返すトランペットの助奏に支えられて、審判のときの一瞬に起る劇的変化「死者の復活の神秘」を象徴的に、劇的に、しかも視覚や聴覚に訴えるように表現しています。



《愛の完成》を歌う最終合唱、第53曲とその《アーメン・コーラス》こそ、ハイライト!


《メサイア》の最終合唱、第53曲「その血で神のために屠られた小羊は」は、ドラマティックなセンスに満ちあふれ、圧倒的な全曲の終止部を作っています。音楽内容に深く立ちいたって聴くと、第53曲はヘンデルのゆたかな想像力によって生み出された真にすぐれた究極の合唱音楽であるといえます。

複雑な声部の組み合わせとテキスト・フレーズの繰り返しの多い第53曲の声楽書法の中には、テキストの意味内容と文脈がいきいきと反映されていることが見いだされます。

第53曲の第1部は、天の玉座の周りの「万の数万倍、千の数千倍」の天使たちの賛美の声の表現です。

第2部は、「天と地と地の下と海にいるすべての被造物、そして、そこにいるあらゆるもの」の賛美の声を表わすように各声部の組合わせを変えながら、最後は天と地のすべてのもの、あらゆるものが一つになって「玉座に座っておられる方(父なる神)と小羊(キリスト)の栄光」を賛美する大合唱になっています。

第3部は、《Amen》 一語のテキストですが、第44曲「ハレルヤ!」で《メサイア》の賛美の頂点を形成したヘンデルが、さらにもう一度、最終合唱の《アーメン・コーラス》で第二部の最後「ハレルヤ!」につづく賛美の頂点を構築して、キリスト教信仰の全体像の芸術表現である《メサイア》を終結させています。


《アーメン・コーラス》は,音楽的に非常に緻密なカノン(模倣手法)を用いた雄大なフーガ(模倣反復)の合唱曲です。「アーメン」一語のテキストは、ここではホモフォニーやポリフォニーなどあらゆる作曲技法によって究極のフーガに変容し、159小節までの間に、ソプラノ26回、アルト37回、テノール37回、バス39回も繰り返されています。その延べ回数は139回の多数に上り、これに合唱人数を乗ずるならばさらに大きな数字になります。

合唱におけるアーメンの数は、ヨハネの黙示録的表現で「万の数万倍」「千の数千倍」。《アーメン・コーラス》の壮大で、神秘に与る喜びと感謝の賛美の響きの広がりは、ヨハネの黙示録の叙述を余すところなく、深遠壮大に音楽表現したものにほかなりません。


また《アーメン・コーラス》は、聖書テキストにもとづいて作曲され、演奏されたキリスト教信仰の全内容にたいする完全なる受容・肯定とその信仰宣言であると言えます。さらにそれは、キリストの再臨における「愛の完成(救いの完成)」への待望、ヨハネの黙示録の最後に書かれている「アーメン、主イエスよ、来てください(マラナ・タ)!」であるともいえましょう。


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by francesco1hen | 2011-11-24 11:50


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