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家田足穂のエキサイト・ブログ

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2012年 03月 22日

[ 5 ] 《完全なもの》とは何でしょうか? (つづき1)

(1)宇宙の根源ブラフマンと人間の魂アートマンとの一致

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アーリア人が侵入してきたインド北西部のカイバル峠



紀元前1500年ごろインドに侵入したアーリア人は、『リグ・ヴェーダ』(賛歌集)というバラモン教の聖典を残しています。そのうちの一部『ウパニッシャッド』(奥義書の意)は、200種以上あり、前8世紀から紀元前後までに成立しています。この文書は深い瞑想へと発展する最古の哲学的思想といわれています。

『ウパニッシャッド』によれば、ブラフマン(梵)は宇宙の根本原理・最高存在で、宇宙に存在する見えるものと見えないものすべての森羅万象を創造し、かつ宇宙の全体の中に浸透しているとも言われています。そして、真実に存在するものは、不生・不滅・唯一の宇宙根本原因であるブラフマンのみである。一切の万物はブラフマンに基づいて生起・持続・消滅を繰り返すと説き、他の存在は虚妄(仮象)に過ぎないとしています。


人間個人の中心生命であるアートマン(我)は、個体の肉体や精神活動が消滅しても、内在的普遍として存在する。そして、外界に存在するすべての物とすべての活動の背後にある究極の最高存在であるブラフマン(宇宙の中心生命)と人間個人の中心生命(魂)アートマンとは同一であり、究極的に「一つになる」(梵我一如)と考えられていました。

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           書家金澤翔子の書




最高存在ブラフマンと個としての人間アートマンは、「同一である」ことが人間の理想であり、それは「究極的完全」であるという悟りでした。

                       *


グプタ朝時代(4〜6世紀)にバラモン教を受けついで、支配的宗教になったヒンドゥー教は多神教ですが、その中心的神々は、ブラフマン神(宇宙の創造)、ヴィシュヌ神(宇宙の維持)、シヴァ神(宇宙の破壊)の三神で、その神々によって、宇宙は創造・維持・破壊が繰り返されると考えられています。


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         ローイ・カント  ブラフマン神  ヴィシュヌ神  シヴァ神


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(2)プラトンにおける《完全であるもの》


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人間の魂の欲求であるエロースは「自分に欠けている価値あるものを求めようとする情熱(衝動)である」と定義されています。プラトンは「より高い次元のものへの絶えることのない憧れである」(『響宴(シンポジオン』211c)と定義しています。



さらに、プラトンはエロース(求める愛)を性愛からイデアまでの5段階に分けています。異性への愛、感覚的な愛、社会的な愛、学問的な愛、哲学的最高の愛の5段階です。最高の愛とは、イデアへのあこがれ、善美のイデアに向かう愛とされています(『響宴』211)。

哲学者プラトンは、この世界をイデア界と現象界の二つに分けています。そして、目に見えるものは真に存在しない仮の姿(仮象)である。真実に存在するものは目に見えないイデアである。

感覚で知る可視的なものが存在せず、理性でしか知り得ない不可視のイデアが真の存在であるという、この見方は不当・不可思議な見解であると考えられます。

しかし、事実〈目に見える点や線〉は極小の面積でしかなく、〈描かれた三角形〉は時間とともに変化・消滅していまします。ところが目に見えない純粋抽象の三角形は、いくら時間が経っても三角形の本質を失うことはありません。・ ー ∆ の現象は存在せず、三角形のイデアは永久に存在しつづけます。

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現象の背後にある根源的原理「真実在」であるイデアとは何でしょうか? プラトンの『響宴』(211)によれば次のようになります。

イデアは不滅で恒久的存在である。それは生じたり減じたりするものではなく、また増えたり減少したりするものでもない。イデアは絶対美であり、他に影響されない独立自存の唯一の存在である。二つとない美そのもので美の真実在である。イデアはエロースの最終目標であり、最も完全なもの、善のイデアである。これこそ真の存在である。

イデアは生成・消滅しないもの、感覚では捉えられない「永遠不変の神的存在」であると考えられています。


以上のことをまとめてると、つぎのようにも言えます。

求める愛である「エロ−ス」は、究極の対象であるイデア「美のイデア」または「善のイデア」への憧れであって、「真実在」であるイデアを知ることはできてもそれに到達し、一致することはできません。また、最高である「真実在」あるイデアは、憧れてる「エロース」に応え語りかけてくる人格的な存在ではありません。

もちろん、ブラフマンも「アートマン」に語りかける存在ではありませんが、プラトンの考え方は、
最高存在であるブラフマンと人間の魂アートマンが同一、「一つになる」(梵我一如)という『ウパニッシャッド』の考え方とは大きく異なります。

プラトンの場合は、エロースの最高の目標がそこにあるだけなのに対して、ウパニッシャッドの教えは、生きている実存の人間の悟りが、「平安に生きる」ことにつながるのではないでしょうか。


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   アポロンの神託で名高いデルポイ(デルフィ)の神殿跡と野外劇場、ポリスの中心の風景です。
   なにか神秘的な雰囲気が感じられますね!

by francesco1hen | 2012-03-22 17:51


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