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家田足穂のエキサイト・ブログ

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2018年 07月 04日

 『知恵の書』の記述 と 現代人の生き方

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旧約聖書の収められている『知恵の書』が書かれたのは、前2世紀に七十人聖書が完成された後の前88年ー前30年の間と推定されています。

著者はユダヤ人でギリシア哲学思想に精通し、旧約聖書の内容にも明らかでした。ギリシア語で書かれた『知恵の書』の特徴は、不思議なことに旧約聖書と新約聖書をつなぐ役割をもっていることです。

ところで、今日『知恵の書』の2章を読むときに驚くことは、これが前 1世紀に書かれたのもかかわらず、現代世界に住む人間の個人の生き方や国家・経済の在り方を浮かび上がらせるような記述があることです。『知恵の書』には、そのことが次のように記述されています。


2・1 彼らは正しく考えず、互いに言い合う。
    「われわれの一生は短く、悲しみに満ちている。人は最期にあたって何もすすべはなく、また陰府      (死)から人を救い出した者は誰もいない。

  2 われわれは偶然に生まれたものであり、後には、まったく存在しなかった者のようになる。われわれの    鼻の息は煙、人の思いは心臓の鼓動から出る火花にすぎない。

  3 鼓動が止まると、体は灰となり、魂は軽い空気のように消え失せる。

  4 われわれの名は時とともに忘れられ、だれもわれわれの業を思い出してくれない。われわれの一生涯は    薄れゆく雲のように過ぎ去り、霧のように散らされる。日の光に追われ、その熱に溶かされながら。

  5 わらわれの生涯は影のように、ひとたび最後が来れば、やり直しはできない」。 


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この『知恵の書』のことばからは、死から先はないという人々の声が聞こえてくるようです。長時間の延命治療も人の生命を救うことはできず、「体は灰となり、魂は軽い空気のように消え失せる」結果に終わります。人の業績は間もなく人々の記憶から消え去り、人の生涯は雲散霧消してしまいます。

このように人の死の先には何もないと考えることは、人間の悲惨を感じさせるものでしかありません。死が人間の存在を完全に消滅させるということは、人間にただただ恐怖感を与えるだけです。  


そこで、彼らは次のように考えます。


  6 「さあ、目の前にある善いものを楽しもう。若い時のようにこの世のものをひたすら貪ろう。

  7 善い酒と香料におぼれ、春の花を見逃さず、
  8 バラのしぼみがしおれぬうちに、冠にしよう。

  9 われわれが飲んで騒がぬ野辺はないようにしよう。楽しみの跡を至る所に残しておこう。これこそわれ    われの取り分、われわれの定めなのだ。

 10 貧しい義人を虐げよう。年を重ねた老人の白髪も敬いはしない。

 11 わらわれの力を正義のものさしとしよう。弱さは無益なものとされているのだから」。 


この記述からは、現代世界の政治や経済の状況が現れてくるような気がします。


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    世界的に広がる貧富の格差


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人間が生きるために必要なものかと疑わせるような、富の豊かさを象徴する豪華な高層ビルの建物や住居。

高級グルメや高額商品を節度なく求める消費文化の現代人の行動は、贅沢な物質主義の虚飾ともいえる果実を貪るような愚かな姿に思えます。

その生き方が、たとえ生き甲斐のある充実した生活であっても、かならず訪れる死によって終わってしまうものであるならば、「生きる目的」をもたないその行動は、意味のない生涯であったとしか言えません。


「鼓動が止まると、体は灰となり、魂は空気のように消え失せる」ことは果たしてそのようでしょうか。


目に見える外面的な世界のことよりも、人間自身の内面(魂)に眼を向けて、新しい世界を見いださなければならない時ではないでしょうか?



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「われわれの名は時とともに忘れられ、誰もわれわれの業績を思い出してくれない。われわれの一生は薄れゆく雲のように過ぎ去り、霧のように散らされる」

という文字を読むとき、すべての人は生まれかつ、例外なく死に、死ぬ時はいかなる人も財産を持っていくことはできない。


    だから、死で終わる人間の生涯は、何であるかを問わざるをえなくなります。


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イエスのガリラヤでの福音宣教の第一声「時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい」という言葉は、人々がこれまで抱いてきた現世的な価値観の転換をせまる衝撃的なものでした。


イエスが人々に迫る呼びかけは、人々を幸福にするのは、地上の富ではなく、神の国(永遠の命)と神の前に正しい生活を求めることこそが、最も価値のある幸福・神の国にいくことができる、というメッセージでした。


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    ルオー「キリストの顔」







by francesco1hen | 2018-07-04 21:40


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